なかなか出会うことの無い阿寒の熊。
ここに来て7年。いつかは出会ってみたい。
ぼくが初めて熊に出会ったのは5歳の時だった。
子供の頃は、ある山奥に住んでいた(今でもそこが実家だが)
親父が立てたでっかいログハウス。家の裏には川があって、僕の一番の遊び場だった。
家の裏にある川なので、僕らはそのまんま「裏の川」と読んでいた。
本当の川の名はアイヌ語で「箱の・川」と言う。
水が綺麗で、カジカ(ハナカジカ)やオショロコマなどを簡単に見つけることが出来た。
ニホンザリガニだってたくさんいた。カジカとザリガニを捕まえて遊ぶのが楽しかった。
僕の年でニホンザリガニの唐揚げを食ったことがある人もそんなにいないだろう。
川の本流はけっこう広くて、大きな淵もたくさんある。そんな淵には大きなオショロコマが泳いでいたりするけど、水の色が濃くてなんだか怖い場所だった。

夏に日当たりがいい浅瀬にいくとカジカが日向ぼっこをしている。カジカは川底の石と同じ色に擬態するので、慣れないと見つけにくい。
川辺の砂を掘るとヤツメウナギがいた。
川での遊びは楽しかった。北海道の川は夏でも水が冷たいので、なかなか泳ぐのには勇気がいった。
それでも夏の幾日かはトロ場で泳ぐことが出来た。
一度だけ溺れたこともある。ザリガニを追いかけて深みにはまったのだ。
顔まで沈み水中から上を見るときらきら空が綺麗に見えた。不思議と苦しかった記憶はない。
空の美しさだけはいつまでも忘れていないが・・・(なんてね。よく考えたら死ぬとこだった)
川の遊びで一番の冒険は対岸へ渡ることだった。
本流の流れは子どもに厳しい。
なかなか行けない対岸は未知の世界のように感じていた。
冬になると川には氷の橋がかかる。濡れずに川を渡れる唯一の季節。
雪の落ち着いた春先、対岸へ行く。
春は雪の表面が昼と夜の寒暖で固くなる。そんな固雪を歩いて川を渡るのだ。
氷や雪の隙間からは流れる川が見える。
渡れそうな場所を慎重に・・半分は勘?で選び、対岸へいく。
対岸は南向きの斜面で雪解も早い、福寿草がいち早く咲いていた。
少し斜面を登れば家の方角を見渡すことができた、とにかくいつもと違う場所へ行くだけで楽しいのだ。
春先のこの川へ落ちたらやばそうなのはわかっていた。だから落ちることもなかった。
家の前には林道が走り、奥まで続いている。
我が家の上流に他の家はない。そんな林道を行くのも楽しい冒険だった。
ある時、散歩に出かけた。一人ではなかった。
紅葉の始まった秋晴れのすがすがしい日だった。
道中のことはほとんど覚えていないが、2キロほど歩いたところで見たものは鮮明に覚えている。
物音にふと左を見る。
数十mほど離れた巨木からオレンジ色の葉っぱが大量に散っている。
同時に紅葉した葉っぱの中からすっと黒いものが下りてきた。
その一瞬で僕が思ったことは 「あっ、ネコ」 当時僕の家には真っ黒いネコがいたからだ。
そいつ以外に黒い動物はあまり見たことがなかったからかな?当時僕はまだ5歳だ。
その黒いものは全身を現し、木の枝にぶら下がった。
両手でぶらさがって、ぶらぶらしながらこっちを見た。
ほんの一瞬、目が合った。
初めての出会いだった。
まだ若い小さな熊だった。年齢だけなら5歳の僕のほうが上だったと思う。
木の枝にぶらさがっている姿はとても愛嬌のあるものだった。
それからパッと飛び降り、笹音をたてながら黒いものは姿を消した。
一生忘れない初めての出会いだ。
自分より何倍も大きな獣の存在は、森へ入る楽しさを倍増させた。
また会いたい。そう思える出会いだったから・・・。
次回はヒグマの怖さを知った「蜂箱襲撃事件」をそのうち。
がく
[C751]